和紙を漉(す)くひと。 ―佐藤徹哉さん―
栃尾の軽井沢地区に、夫婦お二人で手漉き和紙を生産する職人さんがいらっしゃいます。
その「紙漉 サトウ工房」さんに、十月の秋晴れの日、お仕事を見学させていただきました。
サトウ工房の和紙は自然素材だけで作られる
かつて山間の農村では、楮(こうぞ)の木などの原料を栽培し、雪の降り積もる冬季に紙漉きをする和紙作りが盛んだったそうです。
佐藤さんの工房では、楮や「ねり」の原料になるトロロアオイを畑で育て、工程のほとんどを手作業で行う昔ながらの自給自足に近いやり方をされています。
楮の繊維を漉き舟の水の中で均一に広げる役目をする「ねり」は、トロロアオイの根から取り出す粘り成分。
楮と共に重要な原料の一つです。
秋に収穫した根の保存には、以前は防腐処置のためクレゾール液に漬けていましたが、環境や身体に染みつく臭いを考えてやめられたそうです。
柔らかな風合いに染まる和紙の染料は、工房の周囲で採集するヨモギなどの植物を。
佐藤さんの漉く和紙は、文字通り栃尾の豊かな風土が作りあげるものなのですね。
佐藤さんと和紙の出会い
昭和42年長岡市生まれ。
学校卒業後、経験ゼロのまま東頸城郡へ移住し農業に従事。
隣の高柳町で和紙作りに出会う。
1999年から2010年まで、日本酒久保田のラベルで知られる旧刈羽郡高柳町の「越後門出和紙」にて和紙の生産技術を習得。
2013年、現在地を購入、開業されました。
飄々として気負わず、自然体で前へ進む人の和紙への思いは『楮と使ってくれるひとの間に立って、丁寧に、シンプルに』。
理想の地「栃尾の軽井沢」
母屋から少し離れた新しい作業所が佐藤さんの工房です。
標高450mの軽井沢は積雪の量や便利さから言えば生活しやすいとは言えないと思いますが、ここを選んだ理由は、和紙作りに欠かせない豊富な水を供給できる井戸があり、すぐ目の前に広い畑があったこと。
そして新榎トンネルを抜ければ長岡市内の実家に近いことでした(佐藤さんは親思いの優しい方なのです)。
軽井沢は、紙を漉くには最適の場所でした。
和紙の未来・存在感とぬくもりと
天然の原料を和紙にするにはたいへんな手間がかかります。
大量生産には向かず、高価なこともあり身近な存在ではありません。
それゆえ高級感や特別感がありますので、佐藤さんの工房では地酒のラベルの他、絵画用の紙、便箋や封筒、名刺用紙などを作っています。
長岡市呉服町の「ギャラリーmu-an」で購入できるようですよ。
海外では、千年もつと言われる強靭さを認められ、文化財の修復にも使われています。
インテリアへの利用も注目される分野です。
この記事は当社瓦版 ほっとぽっと2016年12月号No.127 に収録した内容です。